【占い小説】「ワンコールで拓けた人生」短編

2019 11/02
【占い小説】「ワンコールで拓けた人生」短編

夏葉は握ったスマホをじっと見つめていた。

電話をかけるか否か、それが夏葉が1ミリも動かずスマホと睨めっこをしている理由だった。

電話占い・・・

元々占いなど信じないし興味も無いというタイプの夏葉だったが、最近「何か悪いものでも憑いているのでは!?」というくらい不運、不幸続きですっかり参ってしまい、現実主義者の夏葉でも何かスピリチュアル的なものの存在を意識し始めていたのだ。

というのも、今年に入ってから本当に夏葉の人生は最低最悪だったのだ。

年明け早々に膀胱炎になり、治ったと思ったら彼氏の浮気が発覚し、平謝りされたために破局は免れたが今もモヤモヤした気持ちは続いているし、浮気騒動で修羅場だった時には、大人になってすっかりおさまったと思っていた蕁麻疹が頻繁に出て夏葉を苦しめた。

浮気のストレスからか、蕁麻疹に苦しむ夏葉を更に襲ったのは、なんと円形脱毛症で、毛が抜けるという新たなストレスも加わり、軽いウツ状態となった。

更には仕事も不調で、つまらないミスを重ねたせいでプロジェクトチームから外され、やりたくもない仕事を回されて、しかもそれが激務だった。

彼氏の浮気のストレスと、度重なる体調不良と、仕事のストレスで、心身ともに限界だった夏葉は、流石にこれはおかしい、と思っていた。

厄年ではないのに、なぜこんなに最悪な事が重なるのか。自分は何かに憑かれているか呪われているか、とにかく人知を超えた得体の知れない負のパワーのようなものを感じ、お祓いへ行ってみた。

お祓いは滞りなく終わったものの、事態は一向に改善しなかった。

やっぱり神頼みじゃ何も変わらない、か・・・。

夏葉はそう思い、どうにかして合理的に自分の身に降りかかった事を受け入れようと努力してみたが、しかしだからといって、これから先事態が改善していくのか、それとも更に悪くなるのか、どうしたらどちらに転ぶのか、皆目見当もつかなかった。

このままで良いのか、このままではダメなのか・・・

悩む夏葉の目に、ある日ひとつのインターネット広告が留まった。

それが、電話占いだった。

「貴方の未来を観ます ~恋愛、仕事、人生を明るいものに~」

そんなキャッチコピーに惹かれ、夏葉は思わず広告をクリックして電話占いの紹介ページを食い入るように見つめていた。

占いというと、街角やデパートなどの一角で対面でおこなうもの、というイメージが強かったが、今は電話占いなんてものもあるんだ・・・

夏葉はそう思い、興味深く電話占いについてのページを読み進めていた。

そのサイトには沢山の占い師が登録されていて、それぞれキャリアや得意分野、実績、お客さんからの評価、占いの方法などが掲載されていた。

占星術、タロットなど、夏葉が聞いた事のある占いもあれば、初めて目にする占いもあり、占う内容もただの「恋愛」という大きなくくりだけでなく「復縁」関係の占いが得意な占い師がいたり、健康関連の占いが得意で特にメンタル面のケアが専門という占い師もいた。

占い師によって料金も様々で、ベテランで人気の占い師は1分あたりの費用が高く、新人でキャリアの浅い占い師は単価が安かった。

また、「現在待機中」という文字が出ていれば、今すぐ電話で占いをお願いできるらしい、という事も分かったし、待機中ではない占い師は予約ができるという事も分かった。

初回はかなり安くなるキャンペーンをおこなっていたので、夏葉はがぜん興味が湧いてきて、自分の人生について占ってもらったらどうなるだろう、と考えた。

そして、キャンペーンの内容と、それから自分が電話で占いを依頼した場合にどのくらい時間がかかり、どのくらいの出費になるか念入りにシミュレーションして、スマホを手に取った。

しかしいざ電話をかけようと思うと緊張してしまい、スマホを持ったまま固まってしまった。パソコンの「今すぐコールする」をクリックして、送られてきた番号にかければ占い師と通話できるのだが、なかなかその一歩が出なかった。

暫く悩み、そして半刻も経った頃、やっと「ええい!とりあえずかけてしまえ!!」と決意し、夏葉は電話をかけた。

夏葉が電話をかけたのは、占い師としてのキャリアは10年以上のベテランだが、電話占いに登録したのが最近だったために安価で相談ができるという女性占い師で、電話口からは優しそうな落ち着いた女性の声が聞こえてきた。

夏葉は、予めなるべく簡潔に分かりやすくまとめておいた悩みを占い師に吐き出して、自分の将来と、未来を明るくするためにすべき事を聞いてみた。

占い師は口を挟む事なくじっくりと夏葉の言葉を聞き、それから「では今から夏葉さんの未来を見てみますね」と言って少しの間沈黙が流れた。

そして占い師は、夏葉に占いの結果を伝えた。

その内容は夏葉にとって身に覚えがありすぎるもので、夏葉は正直とても驚いた。簡潔にまとめて伝えたため、体調不良の細かい原因や、仕事がうまくいかなくなった時期などは伝えなかったのに、それも的確に指摘され、更に夏葉の性格や特徴も、よく家族や友人に指摘されるような事を言い当てられ、とても驚いた。

占い師は夏葉の未来について、良くなっていくと断言した。そしてその「良い未来」を切り拓いていくためには、今の彼氏との関係を見直さなければならない、とハッキリと告げられた。今の彼氏とこのまま関係を続けるか、別れるべきか悩んでいた夏葉にとって、占い師のこのひと言は大きかった。夏葉の躊躇を消し去り、一歩を踏み出すために背中を押してくれた。

電話占いをしてから、夏葉は占い師の言葉を頭の片隅に置いて、彼氏との関係を清算し、新たな人生を歩み始めた。すると、具体的には「彼氏と別れる」という事をしただけだったのに、一気に夏葉の人生が良い方向へ動いていったのだ。

会社でのミスも激減し、体調も安定し、平穏な日々が戻ってきた。そして彼氏と過ごしていた時間を自分の趣味に費やすようになってから、急に生き生きとしてきた夏葉は、その趣味で知り合った男性と良い雰囲気になり、毎日が充実しだした。

占い師のひと言のおかげで明るく前向きに自分の未来を捉えられるようになり、夏葉はあの時勇気を出して電話をかけて本当に良かったと、嬉しい事が起こるたびにそう思うのであった。

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